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『人狼』オールナイトスペシャル、テアトル新宿にて開催!(長文)

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『人狼』オールナイトスペシャル、テアトル新宿にて開催!(長文) 
 6月24日深夜から25日未明にかけて、新宿三丁目の映画館・テアトル新宿にて、劇場用アニメ映画『人狼 JIN-ROH』公開を記念したオールナイトスペシャル上映会第1弾『押井守SPECIAL “ケルベロス”』が催された。劇場内はもちろん大盛況で、『人狼 JIN-ROH』人気の高さと、沖浦啓介・押井守両監督のカリスマ性を裏付ける一大イベントとなった。

 今回は、上映前に沖浦・押井両監督の話が聞けるとあって、折からの雨にも負けず、整理券を求める長い列ができた。熱心なファンに至っては、23日夜から並ぶ猛者が20人はいたとのこと! 並んだ列に対し、24日11時30分から配布された整理券は立ち見を含め300枚程度で札止め。その後「場内がいっぱいで、安全確保の為ご覧頂けない可能性もございます」という劇場関係者の説明にも関わらず、配布された整理券のキャンセルに一縷の望みを託して集まったファンはさらに30人以上。道行く人々もこの熱気に当てられ、ついつい立ち止まって何のイベントか尋ねだすほどだった。

 上映前の鼎談は、元・徳間書店で「アニメージュ」編集長を任じた渡辺隆史氏(現「キャラアニ・ドット・コム」企画プロデューサー)が司会役として登場し始まった。渡辺氏は自らが編集したアニメージュ別冊「GaZO」における『人狼』特集から、いかに長い月日が流れたか、とまず語り出した。それを受けて押井氏も「僕自身、若い頃は映画のオールナイトばっかり見ていたから、こうした(オールナイトという)場に参加してくれることの意味がよくわかります」「『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』の公開当時を彷彿とさせるね」と返すと、満場の聴衆は皆、感慨深げだった。

 公開後3週間を経て、観客動員数も順調に伸び、全国各地にさらに上映館を拡大している『人狼』。だが映画の完成から、日本公開までは1年半以上の間が空いてしまった。沖浦氏は「一度はお蔵入りも覚悟したが、公開にこぎつけるまで尽力してくださった全ての方にお礼を言いたい。映画は公開されない限り、関わってくれたスタッフに対し申し開きが立たない」「ただ自分の映画を、海外でなんやかやと都合20回位観ることができたのは公開が遅れて良かった点かも」と語った。

 押井氏はより強い口調で、「『攻殻』が終わりかけの頃からの話だった。アニメは1年で作るものだと思っているが制作に1年以上かかった。逃げなかった作画監督は偉いと思う。また公開まで1年半以上かかった。これでは目論んでいるお金も入ってこない。なのに(Production I.G の)石川社長も偉かった。公開が延びていたことについては未だ納得できてはいない。早く公開されれば、沖浦の名前ももっと早く上がっていた。(そうしてさらに新作品が作られたかもしれない)この1年をどうしてくれるんだ!と言いたいが、良い映画は単館上映でも大勢の方が観てくれる。作品自体の力があった。結果オーライです」と熱く本音を語った。

 さらに沖浦氏は「公開しないと完成してないも同じ。ただ、この作品に関わってくれたスタッフにとっては、それぞれこの後で何本も仕事をこなしていて、この作品は過去の物、だが虐げられた作品だけに、皆ひとしおの思いを抱いてくれている。これからは『メトロポリス』の責任を果たしますよ」と力強いお言葉。それを受けて押井氏も「ようやく次回作『AVALON』が完成した。これは試写を観た人曰く『押井さん初の商業映画』らしいから売れるでしょ(笑)その次はアニメやりますよ! アニメに飽きたなんて言ってないんだよ、何でもかんでもアニメなんだなって判ってきただけ」とファンも大喜びする発言が相次いだ。

 さらに現在、映像制作の最先端の現場にいる者が感じる事として押井氏は「『人狼』は従来なら、実写でしか考えられない内容の話。結果、見栄えのする女の子も巨大ロボも出てこないアニメになった。欧州では反ナチの気運が強いので武装を全部米軍に、などと無茶を言われたこともあった。(営業サイドでは)こんなの作られちゃって、どう売ったらいいのか判らないという、アニメの自由度が増した時代ならではの戸惑いもあったのだろう。例えば伏はアニメであれば表現できた役どころで、現実に伏役にハマる俳優さんはいない。そうしたアニメらしからぬ部分が公開を遅らせる遠因にもなった」、沖浦氏も「今世紀最後のアナログアニメって言われますが、単純にCG使いたかったけど機材買えなくて(笑)でもCGオンリーの作品ってやはり、セルとレンズの間の空気感ってものが全く感じられないので、そのあたりがなんとかなればCGも面白いですよね」などと貴重な話をされた。

 質問時間も設けられた。沖浦氏は「気に入ってるシーンは都電です。あとベルリンでかな、文明が電話取るシーンの後で必ず笑いが起こったんですよ。訳のせいかな?」と聴衆の質問に答えていた。また押井氏は「女性キャラをいかに描くべきか?」という問いに対し「頬の筋肉影を入れるか否か、表情の再現を取るか、かわいいキャラを取るか、この問題は実は重大だ。女性は情報量を減らしたほうが美しく見える。『AVALON』でもCGを使って五重も六重もマスクを掛け、女性の肌の情報量を減らしている。リアリズムの次元ではなく、願望が投影され、男性監督が見せたいものが出るのが女性キャラ。その意味で、今回『人狼』での女性の表現はすばらしい。沖浦は僕にはできないことをやったと思う。また、情報量の少ない女性の表現と、情報量の多いギアやタンク、犬などの緻密に描き込まれたものとのバランスが、作品の生命線であると思うし、その点でも合格だ」と終始、沖浦監督をべた褒めだった。

 予定以上に盛り上がった鼎談の後は、各回休憩を挟みつつ、87年作品『紅い眼鏡』、90年作品『ケルベロス・地獄の番犬』そして`84年作品『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』が上映された。『人狼』で押井作品を知った若いファンも、昔からのファンも皆、食い入るようにスクリーンに見入っていた。

 こうして幕を閉じた「押井守SPECIAL “ケルベロス”」だが、なんと『人狼』オールナイトスペシャルはあと2週もある! 来週7月1日は「沖浦啓之HISTORY」と題し、沖浦監督と北久保弘之監督他のトークの後、『攻殻機動隊』『機動警察パトレイバー2 the Movie』『MEMORIES』という豪華ラインナップ、さ来週7月8日は「人狼PLUS」と題し『人狼(英語字幕版)』『機動警察パトレイバー 劇場版』『AKIRA』が上映される。入場料2500円でこれは、どう考えても破格の上映会。ご覧になりたい方はぜひ、余裕を持って整理券確保に動かれると良いだろう。今後もこうしたイベントが全国各地で行われることを願ってやまない。

文責:本誌編集「徹夜で立ち見」萩原 (2000/06/25)

関連URL
http://www.oshiimamoru.com/
押井守公式ウェブサイト『ガブリエルの憂鬱』
http://www.production-ig.co.jp/
プロダクションI.G公式ウェブサイト
http://emotion.bandai.co.jp/news/jinroh/
バンダイビジュアルオンライン『人狼』特設ページ